Synspectiveは、夜間や悪天候でも地表を観測できる小型SAR衛星「StriX」を自社で開発・運用し、その観測データと分析ソリューションを政府機関や企業に提供する宇宙ベンチャー(2024年12月 東証グロース上場)。2025年12月期は売上高23.76億円(前期比+2.6%)にとどまり営業損失41.37億円を計上した一方、政府からの補助金収入37.64億円を含む「総収入」は61.40億円(同+144.8%)まで伸び、補助金が営業外で効いて経常損失は10.74億円・純損失は3.71億円まで縮小した。会社は2026年12月期に総収入160.52億円(+161.4%)・経常利益30.10億円への転換(営業損益は赤字継続見込み)を計画する。衛星量産と政府支援を追い風に総収入が急拡大する成長フェーズにある一方、本業(営業損益)は先行投資で赤字が続き、損益が補助金に大きく依存する構造を持つ会社だ。
① どんな会社か(事業・収益源)
結論から言うと、Synspectiveは「自前の衛星で地球を撮り、その画像とデータを売る」会社だ。2018年設立、2024年12月に東証グロースへ上場した宇宙ベンチャーである。
主力は小型のSAR衛星「StriX(ストリクス)」。SAR(合成開口レーダー)は、自ら電波を当てて反射を捉える方式なので、光学カメラと違い夜間でも雲があっても地表を観測できる。同社はこのStriXを自社で開発・量産し、複数機を周回させる「コンステレーション(衛星群)」の構築を進めている。
収益源は大きく2つ。1つは観測データそのものの提供(主に政府系の顧客向け)。もう1つは、そのデータを使った分析ソリューション(地盤変動の監視、洪水・災害の被害評価、森林管理など)で、民間企業や自治体向けのWebサービスとして提供している。
ここで会社の数字の読み方に一つコツがある。同社は「売上高」とは別に、政府からの補助金収入を売上高に加えた「総収入」というNon-GAAP指標を開示している。2025年12月期は売上高23.76億円に対し、補助金収入37.64億円が加わって総収入は61.40億円。つまり足元の収入は、その大半(約6割)が政府の補助金で構成されている。
- 1小型SAR衛星「StriX」を自社で開発・製造(夜・悪天候でも観測可)
- 2ロケットで打上げ、複数機の衛星群(コンステレーション)で地球を観測
- 3観測データを政府機関などに提供(データ販売)
- 4データを使った分析ソリューションを民間・自治体へ(地盤変動監視・災害評価 等)
出典:Synspective 公式サイト・決算説明資料を基にした概念図。
- 補助金収入(政府)37.64億円(61%)
- 売上高(本業)23.76億円(39%)
出典:Synspective 2025年12月期決算短信。総収入=売上高+政府補助金収入(同社のNon-GAAP指標)。売上高23.76億円+補助金収入37.64億円=総収入61.40億円(検算一致)。
② 強み・濠(moat)
強みは、国産で小型SAR衛星を自社開発・運用できる数少ない企業であること、そして経済安全保障の文脈で政府の強い資金支援を受けている点にある。
SARは夜間・悪天候でも観測できるため、災害発生直後や安全保障の用途で価値が出やすい。光学衛星では撮れない時間帯・天候を埋める役割を担う。さらに同社は、宇宙戦略基金(経済産業省・JAXA等による産業育成基金)の支援対象で、補助事業期間における支援予定上限額237.9億円が公表されている(同社開示)。この補助金収入が、足元の損益を下支えしている。
- 技術:夜間・悪天候でも観測できる小型SAR衛星「StriX」を自社で開発・量産
- 希少性:国産で小型SAR衛星を運用できる数少ない企業(経済安全保障の文脈)
- 政府支援:宇宙戦略基金の支援予定上限額237.9億円が公表(同社開示)。補助金が損益を下支え
- 受注:政府・防衛・海外を含む複数年契約が積み上がる(受注残高が急拡大)
同社開示・報道に基づく整理。
出典:Synspective 2025年12月期決算短信。自己資本比率は76.2%。2024年12月の上場調達と補助金で資金を確保。
③ 置かれている状況(市場と追い風・逆風)
追い風は、安全保障・防災の両面で衛星観測データの需要が高まっていること。各国政府が宇宙領域への投資を強め、日本でも宇宙戦略基金や防衛関連の予算が拡大している。同社は米国子会社(Synspective USA)や欧州拠点を設け、海外展開も進めている。
逆風・留意点は、本業(営業損益)が赤字で、収入の多くを政府補助金に依存していること。衛星の打上げ計画が遅延・失敗すれば、データ提供やコンステレーション構築のスケジュールに影響する。打上げは外部のロケット(Rocket Lab・SpaceX等)に依存している。
- 追い風:安全保障・防災の観測需要データ需要↑
- 追い風:宇宙戦略基金・政府予算補助・受注↑
- 追い風:海外展開(米国・欧州拠点)市場拡大
- 逆風:本業の営業赤字先行投資が重い
- 逆風:補助金への依存剥落時に損益悪化
- 逆風:打上げの遅延・失敗計画リスク
出典:同社開示・報道に基づく論点整理。投資判断ではない。
④ 業績の見方(着目すべき指標とその理由)
この会社は、ふつうの「売上・営業利益」だけで見ると姿を捉えにくい。2025年12月期(連結・実績)は、総収入61.40億円(前期比+144.8%)・売上高23.76億円(同+2.6%)・営業損失41.37億円・経常損失10.74億円・純損失3.71億円。営業損失が大きいのに経常・純損失が小さいのは、補助金収入が営業外で効いているためだ。
まず見たいのは「総収入と売上高の差(=補助金収入)」。本業の売上高はまだ年23億円台で横ばいに近く、足元の収入拡大は補助金が牽引している。補助金は政策に左右されるため、本業の売上高がどれだけ自走で伸びるかが、会社の実力を測る軸になる。
次に受注残高。同社開示によれば、2025年12月期末の受注残高は約249.6億円(前期末比 約+196億円)まで急拡大した。政府・防衛・海外を含む複数年契約が積み上がっており、将来の売上の源泉となる先行指標として重要だ。
2026年12月期の会社予想は、総収入160.52億円(+161.4%)・売上高63.53億円(+167.3%)。営業損益は54.67億円の損失と赤字拡大を見込む一方、補助金収入の増加で経常利益30.10億円・純利益26.24億円への転換を計画している。営業損益(本業)と経常・純損益(補助金後)を分けて見るのが要点だ。
出典:Synspective 決算短信(FY24・FY25実績)。FY26は会社予想。補助金を含む「総収入」とは別の、本業の売上高。
出典:同社 決算説明資料・決算説明会(2026年2月)。複数年契約が積み上がり前期末比で大幅増。将来の売上の源泉。
- ① 総収入と売上高の差(補助金収入):本業がどれだけ自走で伸びるか
- ② 受注残高:将来の売上の源泉。FY2025末は約249.6億円(前期末比 約+196億円)
- ③ 営業損益と経常・純損益の差:本業赤字を補助金がどれだけ埋めているか
企業を読むためのフレーム(質的整理)。
⑤ リスク
成長フェーズの宇宙ベンチャーだが、リスクは正直に並べておく。
- 収益構造:本業(営業損益)が赤字で、収入の多くを政府補助金に依存。補助金が剥落すると損益が大きく悪化しうる
- 先行投資の重さ:衛星量産・打上げに多額の資金が必要(FY2025の投資キャッシュフローは約△116億円)。追加の資金調達や希薄化の可能性
- 打上げ・運用:ロケット(外部委託)の遅延・失敗や衛星の不具合で、計画が後ろ倒しになるおそれ
- 政策依存:宇宙戦略基金・防衛予算など政策動向に業績が左右される
- 規模・流動性:グロース市場の新興株で時価総額・実績が小さく、株価の値動きが荒くなりやすい
リスク論点の見取り図(質的整理)。
参考文献
公開日 2026年6月16日(一次情報=決算短信・決算説明会等に基づく)