日本発条は、単純な「自動車部品会社」ではありません。売上規模をつくる自動車事業と、「AI・クラウドのデータ保存を支えるHDD用部品事業」が同居する会社です。
投資家として最初に見るべきなのは、売上高の大きさではなく、どの事業が利益を生んでいるかです。その答えがDDS。HDD用サスペンションと半導体検査用部品を含む、営業利益率20.6%の事業です。
売上と利益が逆転する。
2026年3月期決算資料によると、自動車関連は売上の土台、DDSは利益の中心です。
全社売上の15.5%
全社営業利益の約56.9%
※営業利益率と構成比は当サイト計算。丸め・調整により合計は全社営業利益と一致しません。DDSには半導体検査用部品も含まれ、260億円すべてをHDD利益とはみなしません。
HDDは、こうして読み書き保存する。
円盤に保存し、磁気ヘッドで読み書きし、サスペンションで位置を支えます。
回転軸FPC(銅色の信号線)アームサスペンション磁気ヘッド(先端)アームが動かし、サスペンションが整える
幅広い銀色部分がアーム、その先に続く細い板ばねがサスペンション、最先端が磁気ヘッドです。銅色のFPCは磁気ヘッドとHDD本体の制御回路を接続します。左の黒い部分は接続端子・回路部です。

薄い板ばねが円盤上へ張り出す
回転中は先端の磁気ヘッドが円盤すれすれを浮上します。薄さ・軽さと姿勢制御の両立が必要です。

先端に載る、極小の読み書き装置
黒い小片が磁気ヘッドを載せたスライダー。サスペンションが位置と姿勢を支えます。
DSAとCLAは、動かす場所が異なる微小アクチュエータです。TSAは両方を組み合わせ、より細かく位置を合わせます。
写真は構造理解のための一般的なHDDで、日本発条製品そのものではありません。
小さいからこそ、簡単にはつくれない。
世界シェア50%以上を支えるのは、部品単体の薄さだけではありません。
設計・解析・評価
ばねの挙動や荷重を解析し、設計から評価まで一貫して対応する。
生産技術
微細な板ばねとアクチュエータを、安定した量産へ落とし込む。
品質管理
清浄度とばらつきを管理し、高密度HDDの読み書きを支える。
設備・供給体制
生産設備を開発し、日本・中国・タイの3拠点から供給する。
※日本発条「2024年度 株主の皆さまへ」に記載された、顧客に選ばれる理由を基に整理。
ニアラインHDDは、大容量データを保存する。
ニアラインHDDは、データセンターなどで使われる大容量HDDです。中にある部品の役割を順番に見ます。
横にスワイプして流れを見る →
円盤・磁気ヘッド・サスペンションはHDD内部の構成部品です。日本発条が供給するのは、磁気ヘッドの位置を支えるサスペンションです。
HOYA
ニアライン向け約40%アルミ製を含むニアライン向け3.5インチ基板市場の金額シェア。HOYA推定・2024年度です。
TDKほか2社
製造は3社に集約TDK、Seagate、Western Digitalの3社。TDKの推定シェアは15〜20%です。
需要を供給能力へ変える。
タイ工場の新生産棟は約150億円。会社は今回分を含む製造設備投資を総額約350億円、段階的に実施する予定です。新棟の完成予定は2027年12月です。
増収より、利益への変換を見る。
増産費用を吸収して、DDSが20%前後の利益率を維持できるかが焦点です。
DDS事業の推移
単位:億円。2027年3月期は会社予想。利益率は当サイト計算。
決算で追う6つの進捗ポイント
- 01DDS売上高と利益率数量増が利益へ変わったか
- 02サスペンション数量年10〜15%成長の前提
- 03売価と製品構成TSA・高多層HDD向け
- 04タイ増産の固定費人員・設備・減価償却
- 05懸架ばね・シート低採算事業の改善
- 06米国・欧州拠点赤字・低採算拠点の改善
期待の裏に、崩れる条件。
利益が伸びる条件
- ニアラインHDDの生産台数が増える
- 多層化で1台あたり搭載数が増える
- TSAなど高付加価値品の比率が上がる
- 増産後も高い稼働率を維持する
崩れる条件
- HDDメーカーの在庫・発注調整
- 記録密度向上で部品数量が伸びない
- 約350億円投資の固定費が先行する
- 自動車事業の低採算が改善しない
DDSの数量・単価・製品構成が、増産の固定費を上回れるかを見ます。
自動車会社として売上をつくり、
精密部品会社として利益をつくる。
日本発条の面白さは、巨大な自動車部品事業の中に、HDDと半導体に接続する高収益事業を持つことです。次の決算ではDDSの増収率より、利益率・数量見通し・増産費用を先に確認します。
参考文献・写真ライセンスを確認する
- 日本発条 2026年3月期 決算説明資料 ↗
- 日本発条 2026年3月期 決算説明会 質疑応答要旨 ↗
- 日本発条 個人投資家の皆様へ ↗
- 日本発条 成長に向けた取り組み(PC用とデータセンター用の搭載数比較) ↗
- 日本発条 HDD用サスペンション ↗
- 日本発条 高記録容量HDDを支える薄板ばね ↗
- 日本発条 2025年3月期 決算説明資料(TSAの構造) ↗
- 日本発条 2024年度 株主の皆さまへ(HDD用サスペンションの強み) ↗
- 日本発条 タイでのHDD用サスペンション増産投資 ↗
- TDK 2026年3月期 決算説明会 ↗
- TDK United Report 2025(HDD用磁気ヘッドの市場構造) ↗
- HOYA 統合報告書2025(ニアラインHDD用ガラス基板) ↗
- Seagate HDDとSSDの役割・HDD内部構造 ↗
- HDD内部写真 / Gunnar Wolf(CC BY-SA 4.0)↗
- アクチュエータ写真 / Malcolm Koo(CC BY 4.0)↗
- プラッタ・ヘッド写真 / Matthew Field(CC BY-SA 3.0)↗
- 磁気ヘッド写真 / Roman Starkov(CC BY-SA 4.0)↗
公開日 2026年8月4日(一次情報=決算説明資料・質疑応答等に基づく)
